IoTはかなり普及しさまざまな場面で使われるようになりましたが、次は、IoHという言葉が聞かれるようになってきました。IoHは「ヒト」の情報を収集・活用する技術で、さまざまな分野での活用が期待されています。
IoTが普及しつつある製造業においても、IoHは業務効率化や業務改善、従業員のエンゲージメントに大きな効果を発揮することが期待されます。これからはIoTとIoHを組み合わせて導入する現場も増えていくことも予想されます。
ここでは、IoHの概要とそのメリット、IoHを実現する要素、導入する課題などを紹介します。
IoHとは
IoHは「Internet of Human」、「ヒトのインターネット」と呼ばれるものです。通常インターネットにつながれるデジタル機器だけでなく、人が意識せずにインターネットに接続され、行動や状態が情報として収集・蓄積されることを指します。
IoHにより、人の位置や行動、各種生体情報、感情、嗜好などを常時データ化してインターネット経由で収集することができます。それらを分析することで、例えば人の行動や健康状態の改善、組織の生産性向上の支援、高精度なマーケティング情報の入手、といったことが可能です。
IoHの基盤
技術の発達により、人が常にインターネットに接続されるような装置が普及してきました。それによってIoHの基盤も整いつつあります。
「人をインターネットに接続する装置」には、次のようなものがあります。
- スマートフォン
- 時計、眼鏡、VRヘッドセットなどのウェアラブルデバイス
- スマートスピーカー、音声デバイスなど
IoHで得られる情報
上のような装置を使い、例えば、人に関する次のような情報を得ることができます。
- 体温、血圧、心拍、心電図など健康状態、生体情報
- 位置情報や行動パターン
- 趣味嗜好、感情など
得られる情報は大きく2つに分けることができます。
- 個人に関するデータを継続的に収集する
個人の行動や嗜好の把握、健康増進に役立てることができます。 - 多くの人数から同じ項目に関するデータを収集する
業務フローの改善、マーケティングなどに役立てることができます。
IoHとIoD・IoT・IoEとの違い
IoHと似た言葉に、IoT、IoD、IoEなどがあります。
IoD(Internet of Digital)とは、PCやスマートフォンなど、デジタル機器をインターネットにつなぐことです。IoTの前の段階と言えます。
IoT(Internet of Things)は「モノのインターネット」とも言われ、PCやスマートフォンだけでなく、あらゆる物をインターネットに接続し、情報を送受信・操作する技術のことです。インターネットに接続してデータ取得・分析の対象となるのは、家電や工場の機械、車両など、これまでインターネットに接続されていなかったさまざまなものがあります。
IoTについては、次の記事も参考にしてください。
IoHはIoTの次の段階で、データ取得・分析の対象となるのは「ヒト」です。人が常にインターネットとつながり、IoD やIoTの情報へアクセスして、活用することができます。また人のデータを利用することで、IoDとIoTによるデータの効果をより発揮することも可能です。
IoE(Internet of Everything)は、モノ、ヒト、コト(データ)などあらゆるものがインターネットにつながることで、IoD、IoT、IoHのすべてを含みます。
IoEについては、次の記事も参考にしてください。
IoEとは何か?IoTとの違い、DXとの関連、メリットやリスクも解説
製造業におけるIoHの活用例と見込めるメリット
紹介したIoHは、さまざまな業界で活用が期待されていますが、製造業においても次のように活用されつつあります。
- 作業の安全確保
作業中の若手作業員とベテランの現場監督者がデバイスを通じて視界を共有することで、適切な指示や注意喚起、教育ができます。また作業員の生体情報をモニタリングすることで、体調不良に素早く気づくことが可能です。
作業の安全が強化されて安心して作業できるようになります。作業効率も上がり作業の時間や手間も削減できるでしょう。それによって従業員のエンゲージメントが向上し、職場全体の雰囲気を好転させて、良い循環を生むと期待できます。
- 作業環境改善
作業場、工場の作業員の動きや雰囲気を分析することで、作業効率の悪い部分を発見できます。取得・分析したデータを基に、例えば次のように改善することもできるでしょう。
・作業を可能な限り自動化する
・より良い作業フローを提案する
・スムーズに作業を進めるため、コミュニケーションを促進する
そのように作業環境を改善し、生産性向上につなげることが可能です。
- 不正防止
作業員と現場監督者が作業中の視界を共有できるため、作業員は程よい緊張感をもって業務にあたることになります。適切でない行動の抑止力にもなるでしょう。
必要以上の監視・指示は、作業員のモチベーション低下につながってしまう恐れがあるため避けなければいけませんが、上手に活用すれば、不正防止対策になります。
以上のように、IoHによって作業員の行動をデータ化することで、安全確保、業務効率化、生産性向上につなげることが可能です。そういったことから、IoHはIoTと同様、DXの推進にも大きく寄与することも期待されます。
IoHを実現するための要素
IoHを実現するには、次のような要素が必要になります。
ウェアラブルデバイス
人が常に身につけているコンピュータ機器を、ウェアラブルデバイスと言います。ウェアラブルデバイスを使うことで、人に関するデータを常に低コストで収集し、インターネット経由で送信することが可能です。すでに開発されているものとしてはスマートウォッチ、スマートグラスなどがあり、将来的にはICチップを直接体に埋め込むなどの方法も研究されています。
センサー
欲しいデータを取得するためには、高い精度で対象の状態を測定・検出できるセンサーも必要になります。取得できるデータの種類や精度も重要になるからです。
IoHに利用されるセンサーについては、現在、必要なデータを高精度かつ低コストで安定的に取得できるウェアラブルIoHセンサーの開発が行われています。
IoTとの組み合わせ
IoHはIoTが実現した後のステップで、多くの場合IoTと組み合わせて利用されます。IoTにより収集された物のデータと、IoHにより収集された人のデータを組み合わせて分析することで、より正確で総合的な分析と改革が可能です。そのため、まずはIoTを進めることが必要になります。
IoH導入の課題と解決策
現状でIoHを導入するには、次のような課題があります。
大量のデータの取得・処理の負荷
IoTを導入することで、すでに大量のデータを収集・分析している企業が多くあります。それに加えてIoHを導入すれば、あらゆる分野からさらに膨大な量のデータが集まってくるため、それらのデータを保存するストレージが必要です。
また、IoTやIoHの導入でデータ量は増えますが、情報密度は高くないことも少なくありません。そのため、分析するシステムにも負荷がかかり、処理時間も長くなってしまいます。
そこで、次のような対策が必要です。
- クラウドサービスとの連携によるストレージの確保
- クラウドサービスとの連携による処理の分散
- 素早いフィードバックによる情報密度の上昇
プライバシーへの配慮
IoHでは、人の行動や生体情報など詳細な個人情報を収集し、蓄積していきます。これらのデータを名寄せして統合することで、個人のプライバシーを把握することも可能です。
これはプライバシー侵害のリスクであると言えますが、利便性にもつながるため、ゼロにすることはできません。そこで、データを収集されるユーザーの不安を解消する必要があります。そのためには、次のような対策が必要です。
- セキュリティ対策を強化してデータ管理に関するリスクを低減する
- リスクの低減を周知する
セキュリティの確保
IoTとIoHにより、あらゆる分野からデータが収集されますが、これは情報漏洩の機会が増えることにもつながります。
またIoTにより交通やエネルギーなど社会インフラの制御にもシステムが導入されていくでしょう。これらのシステムがサイバー攻撃の対象になり、システムダウンやデータ破壊・改ざんなどが起これば、社会全体に大きな被害をもたらします。
そのため、次のような対策が必要です。
- セキュリティの強化
- 適切なデータ管理
- 連携しながら部分的に自律が可能なアーキテクチャの構築
組織文化と変革
製造現場だけでなく、多くの企業や部署で、新しい技術への不信、懸念、抵抗が見られます。そのため、新技術やシステムの導入が失敗することも少なくありません。
そこで抵抗をなくすため、次のような対策が必要です。
- 技術に対する理解を深めるよう周知する
- デバイスやシステムを使いやすい環境を整える
- システム導入時には十分なトレーニングを行う
- 積極的な利用にインセンティブを与える
IoHとIoTを組み合わせることで製造現場を大きく変革できる
IoHは人のデータを収集するものなので、マーケティングや都市計画などに使われるイメージがあるかもしれません。しかし、IoTと組み合わせれば製造現場でも幅広く活用が可能です。例えば従業員の働き方や作業環境の改善に大きな効果を発揮するでしょう。
これは製造現場におけるDX推進にもつながります。IoTとともにIoHの活用も積極的に検討されてはいかがでしょうか?
製造業におけるDXの重要性やその事例については、次の記事をご覧ください。 「製造業におけるDXの必要性―求められるアクションと推進事例を紹介」